OGATA Tetsuji の数学ブログ

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迷えるP君の究極の動き

ネットウォッチしていたら、2006年に鳥取大学でこんな面白い問題があったとか。

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P君に2人の女友達A子さん、B子さんがいる。

 あるとき、P君が自宅を出発してA子さんの家へ向かった。しかし、自宅からA子さんの家までの距離の1/3進んだところで、思いなおしてB子さんの家へ向かった。そして方向を変えた地点からB子さんの家までの距離の2/3行ったところで、また気が変わりA子さんの家へ向かった。そこから1/3進んでまたB子さんの家へ向かった。

 このようにしてP君はA子さんの家へ方向を変えてから1/3進んでB子さんの家へ方向を変え、それから2/3進んでからA子さんの家へ向かって進むものとする。

この迷えるP君の究極の動きを記述せよ。

ただし、A子さん、B子さん、P君の3人の家は鋭角三角形の3頂点の位置にあり、P君は方向を変えてから次に方向を変えるまでは必ず直進するものとする。

鳥取大学

2006年の記事のようですが定期的に話題になるようで、6年の時を経た私のもとにもネタとしてやってきました。

ネットを探せば回答があるのですが、自分でも解いてみました。10分程度で解けたけど、ネットで検索して出てくる最短の回答にはならなかった。

P君に2人の女友達A子さん、B子さんがいる。あるとき、P君が自宅を 出発して... - Yahoo!知恵袋 によると以下のような回答になるようです。x_n とか書かれても見づらいけど、MathJax で書き起こしてみると読みやすいかも。

… 

A子さんの家の座標を$(1,0)$とB子さんの家の座標を$(-1,0)$と置くことにする。

P君の家の座標を $(x_0,y_0)$

A子さんからB子さんへと$n$回動いた後のP君のいる座標を$(x_n,y_n)$

$(x_{n+1},y_{n+1} )$と$(x_n,y_n)$の関係を求める。

$( x_n,y_n )$からA子さんへ$1/3$進むと

\[ \left(x_n-\frac{x_n+1}{3},y_n-\frac{1}{3}y_n\right) = \left( \frac{2}{3}x_n-\frac{1}{3},\frac{2}{3}y_n \right) \]

この点から、B子さんへ$2/3$進むと

\[ \left( \frac{2}{3}x_n-\frac{1}{3}+\frac{2}{3}\left(1-\left(\frac{2}{3}x_n-\frac{1}{3}\right)\right), \quad \frac{2}{3}y_n-\frac{2}{3}\left(\frac{2}{3}y_n\right) \right) = \left( \frac{2}{9}x_n+\frac{5}{9}, \frac{2}{9}y_n \right) \]

となる。

この座標が、$(x_{n+1},y_{n+1} )$に等しいから

\[ x_{n+1}=\frac{2}{9}x_n+\frac{5}{9}, \quad y_{n+1} = \frac{2}{9}y_n \]

$x_n$と$y_n$の一般項を求めると

\[ x_n = \frac{5}{7} + \left(\frac{2}{9}\right)^n \left( x_0-\frac{5}{7} \right) \]

\[ y_n= \left(\frac{2}{9}\right)^n y_0 \]

したがって$n \to \infty$ のとき

\[ x_n \to 5/7, \quad y_n\ \to 0 \]

\[ \frac{2}{3}x_n -\frac{1}{3} \to \frac{1}{7}, \quad \frac{2}{3} y_n \to 0 \]

よってP君は家を出てしばらくすると、点 $(5/7, 0)$ (A子さんとB子さんの家を4:3の比で内分する点)と点 $(1/7, 0)$ (A子さんとB子さんの家を6:1の比で内分する点)を延々と往復するようになる。■

この回答で上手いなぁと思ったのは、Aさんの家を$(1,0)$、Bさんの家を$(-1,0)$ に置いていること。図を書いてみると回答はAさんの家とBさんの家を結ぶ線分上を何らかの規則で往復することは見えてくるのと、鋭角三角形の厳密な辺の長さまで規定されていないので、相似三角形として一辺 $(-1,0)(1,0)$を固定してよいこと、等がある。

自分が書いた回答は、AさんBさんの家の2点固定の一辺確定ではなく、P君の初期値を$(0,0)$にする1点固定のやり方だった。こうすると計算量は多くなる。

前述の回答はベクトルの点列を使った回答だったが、私の回答は複素平面上で展開した。点列の$x$座標と$y$座標を別々に議論するのが面倒だったので。これだけでも多少は計算量というか記述量が減る。

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点は複素平面上の複素数$\mathbb{C}$のこととする。

まず、点$p$と点$q$の$ n:m $の内分点は

\[ \frac{mp+nq}{n+m}, \quad p,q \in \mathbb{C} \]

である。

AさんとBさんの家の場所をそれぞれ複素平面上の複素数$a$、$b$とする。このとき、P君の出発点$p_0$を原点$0$にしても一般性を失わない。なぜならば、$p_0 \neq 0$ であれば鋭角三角形を平行移動させて、$a-p_0$ を改めて $a$、$b-p_0$ を改めて$b$ とおけばよいだけだからである。なお $0, a, b$ の3点の位置関係は鋭角三角形の頂点となるような位置関係であるとする。

この時、問題の設定と内分点の公式よりP君が$n$回移動した時の位置を$p_n$とすれば

\[ p_1 = \frac{1}{3}a \]

\[ p_2 = \frac{p_1 + 2b}{3} \]

であり、一般に

\[ p_{2k+1} = \frac{2 p_{2k} + a}{3} \]

\[ p_{2k+2} = \frac{p_{2k+1} + 2b}{3} \]

である。

このとき

\[ p_{2k+2} = \frac{p_{2k+1}+2b}{3} = \frac{ \frac{2p_{2k} + a}{3} + 2b}{3} = \frac{2p_{2k} + a + 6b}{9} \]

つまり

\[ p_{2k+2} = \frac{2}{9}p_{2k} + \frac{a+6b}{9} \]

ここで $q_k = p_{2k}$ とすれば

\[ q_{k+1} = \frac{2}{9} q_k + \frac{a+6b}{9} \]

定数項 $(a+6b)/9$ を除去するために数列の差分を取ると

\[ q_{k+1} - q_k = \frac{2}{9}(q_k - q_{k-1}) \]

$r_k = q_{k+1} - q_k$ とおけば

\[ r_k = \frac{2}{9} r_{k-1}, \quad r_0 = q_1 - q_0 \]

より

\[ r_0 = p_2 - p_0 = \frac{a+6b}{9} \]

$r_k$ は初項 $\frac{a+6b}{9}$、公比 $\frac{2}{9}$ の等比数列なので

\[ r_k = \left(\frac{2}{9}\right)^k\frac{a+6b}{9} \]

ここで $r_k = q_{k+1}-q_k$ かつ $q_0 = p_0 = 0$ なので

\[ q_n = \sum_{k=0}^{n-1} (q_{k+1} - q_k) = \sum_{k=0}^{n-1} r_k = \frac{a+6b}{9} \sum_{k=0}^{n-1} \left(\frac{2}{9}\right)^k \]

であり、等比数列の和の公式より

\[ q_n = p_{2n} = \frac{a+6b}{9}\frac{1-\left(\frac{2}{9}\right)^n}{1-\frac{2}{9}} \]

偶数点 $p_{2n}$ の極限は

\[ \lim_{n \to \infty} p_{2n} = \frac{a+6b}{7} \]

奇数点 $p_{2n+1}$ の極限は

\[ \lim_{n \to \infty} p_{2n+1} = \lim_{n \to \infty} \frac{2p_{2n} + a}{3} = \frac{3+4b}{7} \]

より、P君は究極的に、点 $\frac{a+6b}{7}$ (AさんとBさんの家を結んだ直線を6:1に内分した点) と、点 $\frac{3a+4b}{7}$ (AさんとBさんの家を結んだ直線を4:3に内分した点) を往復するようになる。■

結局、AさんとBさんの家を直線で結んだ間を往復する最終的な答えは同じですが、色々数列を扱いましたね。楽しかったですね。