OGATA Tetsuji の数学ブログ

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無限べき乗塔へのいざない

無限べき乗塔(Power Tower)とは以下のように定義される関数です。

\[h(z)=z^{z^{z^{z^\cdots}}}\]

より厳密に言えば

\[h_1(z)=z,  h_n(z)=z^{h_{n-1}(z)},  n \geq 1\]

と定義された関数列 $h_n(z)$ の極限 $h(z)$

\[h(z)=\lim_{n \to \infty}h_n(z)\]

のこと。$z$ の定義域を明示していませんが、ここではそれの一端を確定させていきます。$z=1$ の場合、$h(1)=1$ は自明。

簡単な例として、$h(\sqrt{2})$は2となる、つまり数列$\{h_n(\sqrt{2})\}_{n \in \mathbb{N}}$は2に収束する。このことは中等数学の範囲で証明可能。

略記として、$a_n=h_n\left(\sqrt{2}\right)$と置こう。漸化式は $a_n=\sqrt{2}^{a_{n-1}}$ となる。

また $a_n$ は

\[a_n = \sqrt{2}^{a_{n-1}} = \sqrt{2}^{\sqrt{2}^{\cdots^{\sqrt{2}^{\sqrt{2}}}}} < \sqrt{2}^{\sqrt{2}^{\cdots^{\sqrt{2}^2}}} = 2\]

である。$n$階層のべき乗塔の一番上の$\sqrt{2}$を2に置き換えた右辺は左辺より大きいこと、$\sqrt{2}^2=2$の連鎖が続いて最終的に2になることに注意しよう。

さらに $a_{n-1} \leq a_n$であることも分かる。つまり数列 $\{a_n\}_{n \in \mathbb{N}}$ は有界な単調増加数列である。有界な単調増加数列は収束値を持つという事実から、この数列は収束値を持つ。この収束値を $a$ とすれば、漸化式の両辺を $n \to \infty$ の極限を取ることによって以下の方程式を得る。

\[a=\sqrt{2}^a\]

この実数解は $y=x-\sqrt{2}^x$ のグラフを考察することによって $a=2$ または $a=4$ であることが分かるが、$a_n<2$ より$a=2$ が支持される。よって

\[h(\sqrt{2})=\sqrt{2}^{\sqrt{2}^{\sqrt{2}^\cdots}}=2\]

であることが証明できた。

この無限べき乗塔の$z=\sqrt{2}$の場合、

\[\sqrt{2}=2^{\frac{1}{2}}\]

であるという特徴を使うことで証明できた。$\sqrt{2} \fallingdotseq 1.4142135\cdots$ であるが、$\sqrt{2}$ よりも多少大きな数$z$でも無限べき乗塔が収束することは数値計算で類推できる。前述の有界性の証明の時に用いた論法を使うのであれば

\[z=x^\frac{1}{x}\]

を考察すれば良いことになる。$x=3$ の場合、$z=3^{\frac{1}{3}} \fallingdotseq  1.4422495703074\cdots$ という値を持つが、この数値で無限べき乗塔の数値計算をしても収束することとなる。ただし収束値は3ではないことに注意。3が上界の単調増加数列で収束値を持つことは前述と同様の議論で導けるが、収束値は3ではない(計算の詳細は割愛するが、収束値の概算は$h(3^{1/3}) \fallingdotseq 2.47805268\cdots$)。

計算をしてみると

\[y=x^\frac{1}{x}\]

は、$x$ が $e$ の時、極大値 $e^{1/e} \fallingdotseq 1.4446678610097\cdots$ を持つことが分かる。これも上述と同様の論法で収束することが証明でき、数値計算でも収束の様子を確認することができる。また、この値よりも少しでも大きな値を数値計算で確認すると発散することが数値計算で類推される。この場合は、$z=\sqrt{2}$ の場合と同様の論法で $h(e^{1/e})=e$ であることが分かる。

$h(z)$ を振り返ると

\[h(1)=1, (z=x^{1/x}, x=1)\]

は自明であり、$1 \leq z \leq e^{1/e}$ の場合、無限べき乗塔は収束値を持つことが分かった。

ただ、$z > e^{1/e}$ の場合の厳密な発散性、そして $z < 1$ の場合の考察はまだしていない。$z < 1$ の場合の考察も面白い結果をもたらしてくれるが、それはまた次回、またはここまで記事を読んでくださった方へのプレゼント問題としたい。

私は無限べき乗塔の高度な性質を知らないが、解析接続の手法を使うことで、ほとんどいたるところ $z \in \mathbb{C}$ において $h(z)$ を拡張することができるだろう。