OGATA Tetsuji の数学ブログ

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二次方程式の解の公式と代数的なお話

二次方程式

\[ax^2+bx+c=0, a \neq 0\]

の解$x$は実数係数$a,b,c$を使って以下のように書ける。これを二次方程式の解の公式という。

\[x=\frac{-b\pm \sqrt{b^2-4ac}}{2a}\]

この時、$D=b^2-4ac$と置いた場合、xが実数解のみ持つことを仮定する場合、$D>0$の場合解は2つ、$D=0$の場合解は1つ、$D<0$の場合解を持たないことになる。この$D$を判別式と呼ぶ。

解として複素数を認める場合、二次方程式は必ず重複度を含めて2個の解を持つ。また同様に定義された$n$次方程式(代数方程式)は必ず重複度を込めて$n$個の解を持つ。これを代数学の基本定理と呼ぶ。

解の重複度とは、方程式の左辺を一次の式で因数分解した際に、同じ項が複数出てくることである、例えば以下の場合、左辺は $(x+1)^2$ と因数分解されるので $x=-1$ が二重解となっている。

\[ x^2 +2x + 1= 0\]

上述の二次方程式は、実係数 $a,b,c$ の場合にも複素数解を持つことになるが、$a,b,c$を複素係数にしても、$x$が複素数よりもさらに広い数体系を要求することはなく、代数学の基本定理が同様に成り立つ。このような複素数、および複素数に加法と乗法の演算を定義した複素数体上での上述のような性質複素数代数的閉体であるという。

代数学の基本定理代数的閉体性質は、複素数と複素係数の代数方程式の特徴的な性質である。ただ、その証明は中等数学の範囲では容易ではなく、簡便な証明方法は高等数学での解析学的手法に頼ることになるところが面白いところと言える。具体的には任意の複素係数$n$次多項式

\[f(z)=\sum_{k=0}^n a_k z^k, (a_n \in \mathbb{C},  \forall n \in \mathbb{N})\]

において1次の因数分解

\[f(z)=(z-\alpha)g(z)\]

が出来ればよい(そうすれば複素係数$n-1$次多項式$g(z)$も帰納的に因数分解ができて$f(z)=c \sum_{k=0}^n (z-\alpha_k), (\exists c \in \mathbb{C})$ の形で表せる)ことになるが、この証明を簡便に済ませるためには、複素解析学のリウヴィルの定理や、それよりも強いピカールの定理を動員する必要がある。代数学の基本定理の証明に解析学性質(この場合、実際は複素数に通常の絶対値としての距離(ノルム)を導入した時の集合論としてのコンパクト性によるもの)を使うというのも面白い。

高校生が「なんで虚数なんて『ウソの数』なんて作る必要があるんだ」とブーたれるほのぼのとしたケースはよく見られるが、代数的には虚数単位$i$さえ導入すれば、今まで代数方程式を解くために、自然数、ゼロ、負の数、有理数無理数、実数と散々広げてきた数の体系をこれ以上広げなくても良い(複素数代数的閉体のとしての性質)という点が重要かつ深淵なのです。それ以上に、複素数が自然界の計算を理路整然と語り、現代科学を支える部分は非常に多岐に渡ります。